「非弁行為」とは?― 弁護士にしかできない仕事と、その理由

日々の業務の中で、「それ、弁護士でなくてもできるのでは?」「書類の作成だけなら別の人でもいいのでは?」といった声を耳にすることがあります。
また、実際にご相談を受ける中で、弁護士ではない方が法的な交渉や書類作成を行っていたというケースに直面することもあります。

こうした行為は一見すると「親切心」や「業務の効率化」のように見えるかもしれません。
しかし、内容によっては重大な法令違反、すなわち「非弁行為(ひべんこうい)」に該当し、依頼者や関係者に深刻な不利益を及ぼすことになります。

とりわけ近年では、非弁行為を繰り返すうちに、弁護士の名義や立場を利用して事務所そのものを支配しようとする動きが見られることもあり、見過ごすことのできない問題となっています。

本コラムでは、非弁行為とは何か、どこにリスクがあるのか、そしてなぜそれが法律で禁止されているのかを、できるだけわかりやすくお伝えしたいと思います。
弁護士に相談すべき場面、そうでない場面を見極める参考として、ぜひご一読ください。

  

■誰かの“親切”が法律違反になることも?

「この書類、自分で作るのは大変そうだから、代わりに書いておきますよ」
「知り合いのトラブルについて、私が相手と話をつけておきます」

一見すると親切にも思えるこれらの行為ですが、内容によっては法律違反となるおそれがあることをご存じでしょうか?

それが「非弁行為(ひべんこうい)」と呼ばれるものです。

このコラムでは、非弁行為とは何か、なぜ問題なのか、私たちがどう気をつけるべきかを、一般の方にもわかりやすく解説します。

■「非弁行為」とは?

「非弁行為」とは、弁護士でない者が、一定の要件を満たして法律事務等を行うと、「非弁行為」となります。
このような行為は、弁護士法第72条によって明確に禁止されています。

弁護士法第72条

弁護士でない者は、報酬を得る目的で、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求その他一般の法律事件に関して、鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を行い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。
(出典:e-Gov法令検索、2025年10月15日参照)

◆非弁行為が成立するための5要件

① 主体

行為者が弁護士または弁護士法人でないこと。
行政書士・税理士・社労士・弁理士など他の士業も、この範囲に含まれます。

② 目的(有償性)

報酬を得る目的であること。

ここでいう「報酬」には、次のようなものが含まれます。

  • 金銭(着手金・成功報酬・実費名目の支払いを含む)
  • 物品や接待などの経済的利益
  • 顧客紹介・将来の取引・広告効果などの潜在的利益
  • 形式が「無償」であっても、実質的に利益を見込んでいれば有償目的と判断されます。

③ 客体(対象)

「一般の法律事件」に関する行為であること。
契約紛争・債権回収・離婚・相続・労働・不動産トラブルなど、法的権利義務に関する紛争を広く含みます。
自分自身や自社の事件は原則として対象外ですが、第三者やグループ会社の案件を扱えば“他人の事件”に該当します。

④ 行為類型(内容)

行為が次のいずれかに該当すること。

  • 鑑定:法律上の判断・見解を示す行為
  • 代理:相手方との交渉・示談・契約締結を本人に代わって行うこと
  • 仲裁・和解:当事者間の紛争を調整・解決する行為
  • その他の法律事務:裁判所提出書類の作成、法的助言、条件提示など
  • 周旋:事件の斡旋・紹介を有償で行う行為

「単なる伝言」や「事実確認」にとどまる場合は法律事務に当たりませんが、
法的評価や交渉条件の提示を伴えば非弁行為とされます。

⑤ 態様(業として)

行為が業として行われていること。
すなわち、反復・継続・営業性・組織性を備えている場合を指します。
1回限りでも、営利事業の一環として行えば「業」と評価されることがあります。

◆典型的な非弁行為のパターン
  • 他人のトラブルについて、代理人として交渉する
  • 報酬を受けて裁判書類を作成する
  • 善意であっても、有償または業として法律相談に答える
  • 会社内で、資格のない職員が実質的な法的アドバイスを行う
  • 事件の周旋(あっせん)を有償で行う

この「周旋」とは、法律事件の当事者と弁護士を有償で仲介・紹介する行為を指します。
たとえば、次のようなケースが典型です。

  • トラブルを抱えた人を弁護士に紹介し、その見返りとして紹介料や成功報酬を受け取る。
  • 債権回収や離婚相談などを“紹介ビジネス”として扱い、紹介手数料を得る。
  • 実質的に事件処理の仲介業者のようにふるまう。

これらは、弁護士でない者が「報酬目的」で法律事件に関与する形となり、
弁護士法72条の「周旋」要件を満たすため、非弁行為に該当します。

これらはいずれも、弁護士の資格がなければ行えない行為です。

近時報道された退職代行サービスに関する捜索事案では、退職代行業者が弁護士に案件を有償であっせんしていたとの疑いにより、弁護士法第72条(非弁行為)だけでなく、同法第27条(非弁提携)の観点からも捜査が行われました。
退職代行業者は「通知業務に徹しているから違法ではない」と主張していましたが、実態としては退職交渉や報酬分配が行われていた疑いがあり、形式的な名目ではなく「実質」で判断されます。
このように、弁護士名義が利用されている場合には、非弁行為のみならず、弁護士側にも非弁提携の責任が問われる可能性があります。

◆違反した場合の効果

違反した場合は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります(弁護士法77条4号)。

◆無償行為の限界

「無報酬なら問題ない」と考えられがちですが、次のような場合には実質的に「報酬目的」「業として」行ったと評価されるおそれがあります。

  • 実費・謝礼などを受け取っている
  • 将来の取引・宣伝・紹介を期待している
  • 継続的に他人のトラブルに関与している

つまり、形式的な“無償”ではなく、実質的な利益目的があるかどうかが判断基準です。

◆他士業との関係

行政書士・税理士・社会保険労務士・弁理士など、他の士業であっても、自己の業務範囲を超えて代理交渉や和解を行えば非弁行為に該当します。

例外的に認められるのは以下のような場合に限られます。

士業 例外的に認められる範囲
・認定司法書士 簡易裁判所管轄(140万円以下)の民事事件に関する裁判外和解代理
・弁理士(付記) 知的財産権侵害訴訟における弁護士との共同代理
・債権管理回収業者 特定金銭債権に限る回収業務(債権管理回収業に関する特別措置法)

■なぜ弁護士でなければならないのか?

弁護士は、法律の専門家として、依頼者の利益を守る責任を負っています。
そのため、弁護士には次のような義務と制度が課されています:

厳格な国家試験と研修による資格付与

守秘義務や利益相反回避などの職業倫理

不適切な対応に対する懲戒制度

損害が発生した場合の賠償責任保険の整備

一方で、弁護士以外の者が同じような行為をしてしまうと、

法的根拠のない誤った助言をしてしまうおそれ

責任の所在が曖昧で、被害者救済が困難になる

本来弁護士が対応すべき案件が放置・誤処理される

といった深刻な問題が起きかねません。

■「非弁行為」の例

行政書士が、離婚協議書の作成と慰謝料交渉をセットで請け負い、報酬を得ていた

税理士が、顧問先の未回収売掛金を代理人として督促・交渉していた

知人のトラブルを「代わりに話をつける」と称して介入し、報酬を得ていた無資格者

いずれも、弁護士法に違反する「非弁行為」として、刑事処罰・行政処分の対象となったケースです。

◇非弁行為と「非弁提携」― 名義利用に潜むリスク

非弁行為が問題となる場面では、しばしば「弁護士が関与しているように見える」ケースもあります。
この場合、単なる非弁行為にとどまらず、弁護士自身が非弁業者と提携して法律事務を扱っていると評価されるおそれがあります。
これがいわゆる「非弁提携」です。

●弁護士法27条(非弁護士との提携の禁止)

弁護士は、第七十二条乃至第七十四条の規定に違反する者から事件の周旋を受け、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。

この条文により、弁護士は、非弁業者と共同して法律事務を処理したり、その活動を助長・利用するような関係を持つことを厳格に禁じられています。

●典型的な問題構造

非弁行為の延長線上で生じる問題として、以下のような構図が見られます。

弁護士が在籍する事務所で、弁護士でない「所長」や第三者が実質的に業務を支配している

弁護士名義で事務員や第三者が依頼を受け、契約・報酬受領・広告管理を非弁側が担当している

弁護士が注意しても、非弁側が「これは法律事務ではない」と主張し続ける

弁護士の信用・肩書だけが利用され、実態は非弁者の支配下に置かれている

このような場合、外形上は事務所が通常運営されているように見えても、実質的には弁護士名義の「非弁提携型の事務所支配」となるおそれがあります。

●法的リスク

このような構造では、

弁護士でない者:弁護士法72条違反(非弁行為)として刑事罰の対象

弁護士側:弁護士法27条違反(非弁提携)として懲戒処分(戒告・業務停止等)の対象

さらに、非弁者が「代表」「所長」「顧問」などと名乗って活動を続ける場合には、弁護士法74条(名称等の使用制限)違反や、詐欺・信用毀損・業務妨害などの刑事的評価にも発展し得ます。

●実務上の留意点

非弁行為の問題を未然に防ぐには、弁護士自身が事務所運営・依頼契約・報酬管理を全て自らの責任で行う体制を維持することが不可欠です。
また、弁護士でない者に「所長」「代表」「顧問」などの肩書を与えることは、依頼者に誤解を与え、非弁提携と評価される危険性があるため、厳に慎む必要があります。

このように、「非弁行為」は弁護士資格のない者が法律事務を行う行為を指し、
「非弁提携」は弁護士がその活動を支える関係を結ぶことを指します。
いずれも依頼者の保護と弁護士制度の信頼維持の観点から、極めて重大な問題とされています。

■正しい相談先の選び方

法律問題に直面したときには、

「誰に相談できるか」ではなく、「誰にしか相談できないか」

という視点が重要です。

困ったときには、まず弁護士に相談することが、もっとも確実かつ安全な選択です。
弁護士は、あなたの味方であると同時に、責任をもって法的支援を行う専門職です。

■おわりに

非弁行為は、一見すると善意から始まることもあります。
しかし、それが原因で、依頼者が損害を被ったり、法的手続が混乱したりすることは決して少なくありません。

本来、法的トラブルの場面では、弁護士が責任をもって対応することが社会のルールとされています。

もしご自身やご家族、知人が法律に関わるトラブルを抱えているようでしたら、
まずはお近くの弁護士にご相談ください。


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